木造
to MHS100 and Beyond |2022.10.13

木造
持続可能な社会で再評価される伝統素材

木造

Wooden

持続可能な社会で再評価される伝統素材

Realizing Fire-Resistant Wooden Architecture

日本で最も伝統的に使われてきた建築材料である木材は、いま持続可能な社会に欠かせないものとして再評価されています。生育期にCO2を溜め込む木材は、カーボンニュートラルの理想の素材。伝統的な建材であったにもかかわらず、耐火防火上の規制のために、大規模建築での利用が制限されていました。しかし、その規制・技術が進歩することで利用の可能性が広がっています。MHSではここに着目し木造ニーズの再評価、採用の適正な判断を行いながら、有効な木造建築の実現を推進しています。
 また木材利用は、建築のあり方を左右するだけでなく、林業や山林保全などと密接な関わりがあり、持続可能な社会環境形成の、重要なピースとなっています。MHSの木材利用は、プロジェクトごとの最適解を求めると同時に、サスティナブル社会実現のための最適解を求めることでもあります。

建築主のパートナーとして、
協働で木造建築を実現する手法

Collaborating with Clients as Partners

建築の木造化はCO2排出量削減を推し進める上で非常に有効な手法です。木材は他の建築材料に比べ重量が軽く、運搬・施工段階でのCO2排出量削減が見込めることに加え、森に自生するため生産段階で伐採時CO2を排出しない、さらには育成段階で大気中のCO2を炭素としてストックし代わりに酸素を放出するカーボンニュートラルにとって理想の材料といえます。
 そのため建築での木材利用を促進すべく、2010年の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の制定に始まり、2018年と令和元年の建築基準法改正で防耐火制限が大きく見直され大規模木造建築、耐火・準耐火構造の木造建築物が設計しやすくなるなど、環境が整ってきています。実際、建築雑誌・メディアなどでは特徴的な構造・工法の木造建築が紙面を賑わせており、我々の日常業務でも「木造化」を検討する機会は増えてきています。
 MHSではこれまで様々な木造建築に取組んできています。「小瀬スポーツ公園スケート競技場」や「埼玉県立武道館」、「Kai・遊・パーク」はその中の代表例であり、いずれも大スパン架構によるダイナミックな大空間を木材を用いて実現しています。
 MHSが普段設計する非住宅系の中大規模建築では木造が少数派であることは否めず、官庁案件であらかじめ木材利用が求められる場合など、「木造化」が「目的」となっていることを除くと俎上に載せることは多くありません。今後は木造を「手段」のひとつとして捉え、RC造や鉄骨造と同様に検討のテーブルに自然に上がることを目指しています。
 建築基準法の木造に関する防耐火規制は改正で緩和されたが、条文を読んだ程度ではとても理解しづらいです。以前より防火・準防火地域にかかる集団規定や建物用途、規模にかかる単体規定が複雑に絡み合っており、それが日常業務の木造化に心理的なハードルを構築していたように思えますが、この度の改正で更に複雑になっています。
 MHSでは、その改正内容について概略を理解しやすくするように早見表を作成し、木造化が可能かどうか、所員の木造化に対する心理的なハードルを下げるよう取組んでいます。
 また、木材という材料の性格上、コスト感が掴みづらい点も心理的ハードルのひとつです。この点は大断面集成材を極力使用せず流通材や、流通金物を用いる。協力業者を通じて企画・基本設計初期で工法・樹種・産地・概略数量を鑑みたコストスタディを行うことである程度クリアできます。木材・木造の専門業者は技術的・法的な知識も豊富なので積極的に協働していきま。
 一方、木造が可能かどうかは設計の前段階で決まることが多いことも否めません。以前は防火域内であれば木造化をあきらめていた傾向がありますが、用途・規模など条件を満たせば従前より木造化の幅が広がっているので、より積極的に提案していきます。
 我々からすると木造の耐用年数が他の構造より低いことはデメリットとして捉えてしまうことが多いのですが、税制上耐用年数が短いことは減価償却を早く行うことができ、事業主にとってはメリットになり得ます。用途によって若干の差があるが、RC造では1/2以下、鉄骨造では約2/3の期間であり事業スキームに大きな差が生じる可能性があるので、ライフサイクルでメリットを見出せるよう企画段階で事業主に働きかけていきます。
 先に述べたように木造が「目的」ではなく「手段」のひとつとして普通に選択できるものとしていきます。全体の木造が無理でもメリットがあれば部分木造を、庇や建具などのエレメントへの利用や、内装木質化が特別なものでなく自然に提案できる環境づくりに取組んでいます。

木造・木質化によるメリットについて

Experimenting with New Materials and Construction Methods

-  木造・木質化による、社会的意義

森林は大気中のCO2を光合成によって炭素(C)と酸素(O2)に分解し、炭素のみをその体内に固定化します。その量は樹種によらず木材の重量の約1/2を占めています。これを一般的な木造住宅に換算すると約4トンの炭素を固定している計算で、CO2に換算すると約14トンに上ります。(森林・林業学習館調べ)
森林は伐採されたのち植林され、またCO2を固定化し続けるサスティナブルな資源であり、木造建築は非常に効率の良いCO2削減手法です。解体し燃やされた場合のみCO2を排出しますが、それでももともと大気中にあったCO2を出すだけなので、実質の排出量はゼロであるといえます。
 日本は国土の2/3が森林で、先進国としてはフィンランドに次ぐ森林大国です。また、戦後の拡大造林政策で生まれた人工林が成長し森林資源(森林蓄積量)は増え続けていますが、安価な外国産材に追われ利用されず置き去りにされてしまいました。その間林業は衰退し深刻な状況でその再生・活性化は急務です。2009年には10年後の木材自給率50%以上が「森林・林業再生プラン」として農林水産省から示されたものの、2018年時点で32.4%と達成できていません。我々設計事務所の立場で国産材使用を推し進めることは森林再生に貢献するための責務であると考えます。

-  木造化による、経済面・発注者のメリット

DGsの目標15「陸の豊かさを守ろう」には「森林の持続可能な管理」が含まれていて、その他13「気候変動に具体的な対策を」など複数の目標に木材利用は貢献できる包括的なテーマといえます。企業としても木材の積極的利用はEGS投資でも具体的な手法として実践が可能で評価を得やすいものだといえる。
 中大規模建築での木造は一般的にコストが高いとの印象がありますが、その重量の軽さから生じる基礎躯体削減や、運送コスト上のメリット、構造体を現しにでき内装仕上げを省くなど、トータルで評価すれば、一概にそうともいえません。減価償却期間が短いことによる税制上のメリットや、各種補助金制度の利用なども考えられるので、建築主と一緒に事業費全体で捉えるべきだと考えます。
 また、目的はCO2削減のための木材利用で、「木造」のみではありません。鉄など他素材と組み合わせた混構造や内装材として手近に利用できるところで積極的に使っていきます。
木材を内装として使うことは、他の材料にない温かみや肌触り、香りを持ち合わせた材料であり、実際に断熱性(失熱損失)は鉄の900倍、コンクリートの30倍との比較があります。
 また室内の湿度をコントロールする調湿性を持ち合わせていて、合板内装の住宅では外部の湿度変化と比べ一日の湿度がほぼ50%に保たれるという実験結果があります。
 木の香りにはダニの繁殖を抑制する効果や抗菌・防カビ効果も認められている他、香り成分「フィトンチッド」には人間の心身にも好影響を与える癒し効果があることが分かっています。
 一方で、近年国は木材利用の推進を後押しする狙いで補助金事業を実施していて、民間事業者が非住宅の建築物を木造とする時に利用できそうなものがあります。
 国土交通省は、再生産可能な循環資源である木材を大量に使用する大規模な木造建築物などの先導的な整備事例について、その具体的内容を広く示し、木造建築物などに係る技術の進展に資するとともに普及啓発を図っています。
 林野庁は、人口減に伴う住宅着工戸数の減少が見込まれる中で、木材需要の拡大を図るには、現在木造率が低位な非住宅分野を中心に開拓することが必要であるとし、 このため、構造計算に対応ができる木材の需要及び供給を拡大することを目的とし、特に格付実績の低位な無垢材などのJAS製品の活用に向けた取組みを推進しています。
 MHSにとってより人に優しい建築を社会に提案し続けることは使命です。木造・木材利用はその有効な手段として積極的に採用していきます。そのためには、事業成立から様々な角度・視点での検討を行うことで建築主・建物利用者のメリットを見出し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していく必要があります。

「ニュースタンダード」
としての木造建築とは

“New Standard” for Wooden Architecture?

2010年に公共建築物等木材利用推進法が施行され、低層の公共建築物の木造化の検討が義務付けられて以降、公共建築における木造建築の数は増えてきています。その背景は、各種補助金の策定や新材料及び接合部の開発に加え、防耐火法令の緩和など、多岐にわたっています。ここでは、MHSが取組んできた魅力的な木造、木質空間の事例とその実現手法を紹介します。

CASE | 01新材料 ・新工法 への挑戦

Experimenting with New Materials and Construction Methods

「木質構造」に使用される木質材料の中には、丸太から切り出された製材だけでなく、様々な木質材料が開発されてきていて、木質構造の可能性を広げています。
 一般的なものとして、ひき板を繊維方向に接着集成した集成材や単板を繊維平行方向に積層接着したLVLがあります。単板を1枚ごとに繊維方向を直交積層させた合板などが一般的です。さらに、昨今ではひき板を直交積層し集成したCLT(CROSS LAMINATED TIMBER)の登場により、木造建築の高耐力化が進み、木造の高層化や開放的な木造空間の実現に寄与しています。
 さらに、接合部の高耐力化や、3Dデータを活用して任意形状での加工を可能としたプレカット技術の向上も木質構造の品質向上の一翼を担っています。

木+鉄のハイブリッド部材による大空間

-  新潟市食育花育センター

ここでは、新素材を活用した事例を紹介します。
 花の花弁をイメージした直径約26mのアトリウムの屋根はフラットバーと集成材(スギ)を組み合わせた部材を用いた張弦梁を採用し、柱には鉄骨十字柱と集成材(スギ)を組み合わせたハイブリット部材を用いており、軽快さにも暖かみのある空間を実現しています。
 集成材には、県産材となるスギの集成材を使用していて、スギの弱点である剛性・耐力の低さを、鉄骨で補う設計です。

張弦梁を用いた無柱空間

-  平城宮 第一次大極殿院原事業情報館

資料展示スペースを有する木造平屋の建築物でスパン10.8mの1スパンの構造の建物です。切妻形状の屋根に張弦梁を採用し、スラスト力を8~9割低減させることで軽快な展示空間を実現しています。 

CASE | 02火災に強い木造建築への挑戦

Realizing Fire-Resistant Wooden Architecture

木質材料が他の構造部材と異なる点は部材自身が可燃物であるという点です。これまでの防耐火関連法令は「木造を木造らしく」木材を現した建築を実現する高いハードルとなっていました。しかし、今までも活用されてきた別棟扱いによる緩和に加え、最新の知見を踏まえた建築基準法の改定により、「木」を感じられる木造建築が、様々な規模や用途で実現できる環境が整いつつあります。また、耐火性能を有した木構造部材の開発も進んでいます。木材に耐火石膏ボードによる被覆を施したメンブレン型、木材に燃え止まり層を設けた燃え止まり型、鉄骨を木材に内蔵した鉄骨内蔵型があり、建築計画に即して的確に選定することが、耐火木造建築を実現するポイントとなっています。

別棟通達とメンブレン型耐火部材で
「木」を感じる居住空間を実現

- 中野ぬくもりの郷

特別養護老人ホームと養護老人ホームからなる木造建築であり、全棟の合わせた延べ面積は3,000㎡を超えます。本計画は4棟で構成されており、3階建ての特別養護老人ホームに平屋の養護老人ホーム棟が渡り廊下で接続されています。渡り廊下を鉄骨造による耐火構造とすることで、各棟を耐火計画上別棟と扱うことが可能となり、3階建ての特別養護老人ホームはメンブレン型の耐火木造となるものの、平屋の養護老人ホーム棟は、耐火・準耐火建築部以外の一般木造として扱うことが可能となり、構造材となる木材を現しにした暖かみのある木造空間を実現しています。

メンブレン型耐火部材で木造建築を実現

-  エクレシア南伊豆

メンブレン工法を採用した耐火建築物となる木造の特別養護老人ホーム。居住スペースの間仕切壁を活用して、枠組み壁工法を採用することで経済性に配慮した計画です。

鉄骨内蔵型耐火木造部材を採用した保育園

- 港区立麻布保育園

建物全体はRC造の耐火建築物であるが、保育園内の遊戯室の屋根架構に鉄骨内蔵型の耐火木造を採用することで、木質空間を実現しています。内装の木質化だけでなく、構造体にも木材を使うことで、港区における二酸化炭素固定認証制度上の最高ランクの「アップグレード値② ★★★」を取得しました。

CASE | 03 生産条件の制約を逆手に取った
木造建築への挑戦

Realizing Wooden Construction Taking Advantage of Procurement Constraints

木造建築の実現には、RC造やS造とは異なり、部材の選定条件が生じる場合があります。
 例えば、自治体が所有している森林の木材を利用する場合、強度、断面寸法、長さなどの制約が発生します。また、経済性に配慮するなかで、住宅用の流通材を用いる場合も部材選定の大きな制約となり得ます。これらの制約を逆手に取った構造計画により実現した事例を紹介します。

樹状柱により住宅用の一般流通集成材を最大限利用した

- 埼玉工業大学ものづくりセンター

約25×25mの大空間を樹状の柱で支える空間。樹状柱は、在来軸組構法の仕口を用いた接合方法を利用することで、金物のないシンプルな接合部を実現しています。
 樹状柱は床レベルでは4つの支点で空間のフレキシビリティーを確保しながら、屋根面では48の支点に分散して屋根を支えています。この48の支点を基に、長さ6m以内の部材で屋根を構成することで、一般流通集成材と住宅用の既製金物を最大限活用でき、ローコストで魅力的な空間を実現しています。

町有林のヒノキ間伐製材を利用した組柱で実現

-  四万十町庁舎

町有林のヒノキ間伐材を利用した木造組柱を採用しました。高知県はJAS認定工場を有していないことから、120×240の製材をスプリットリングで束ねた柱を採用しています。柱の軸耐力は、高知県立森林技術センターで強度試験を行うことで性能を確認しています。制約のある技術を最大限活用することで魅力ある構造システムを実現しています。住宅用の既製金物を最大限活用でき、ローコストで魅力的な空間を実現しています。

CASE | 04部分木造の提案

Ideas for Using Wood Partially

すべての主要構造部を木造化する必要はなく、建物のキーとなる一部分を木造化することで建築が豊かになる提案を行ってきた。ここではその例を紹介します。

日射遮蔽を兼ねた木製耐震材

-  開成町役場

主要構造部はRC造+S造の混構造ですが、エントランスアトリウムの日射遮蔽のために設けられた木製のアジサイパネルは、地震時における建物のねじれ変形の抑制の役割を担っていて、耐震要素として機能しています。
 アジサイパネルで使用した木材は、105mm角の国産カラマツの集成材を使用していて、町民が利用するエントランスロビーを暖かくつつみ込んでいます。

在来工法による重ね梁片持ち梁

-  埼玉工業大学新工学科棟

エントランスに設けた約3.5mの片持ち庇を木造で計画しました。
 庇は120×360の集成材の上下に120×120の添え材を接着ビス止めした重ね梁を採用することで、大断面集成材や特殊な金物を使用しない在来工法のみで実現しています。

 

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