HAMACHO HOTEL&APARTMENTS
PEOPLE |2019.12.27

賑わいの中心となる、
街のシンボルをつくる。

江戸時代から「職人の町」として知られてきた日本橋浜町に、新たなシンボルが生まれました。
HAMACHO HOTEL&APARTMENTSはホテルとマンション、ダイニングバーやショップなどが融合した複合施設です。このユニークなビルが街にどんな彩りをもたらすのか。関係者の声に迫りました。

街への愛着を、
このビルから広げていきたい。

安田不動産株式会社
平田吉史さん

そこにあるだけで街を活気づけてくれる。

私たち安田不動産は20年以上に渡って、日本橋浜町エリアの開発・まちづくりに携わってきました。まちづくりのコンセプトに掲げてきたのは“「手しごと」と「緑」のみえる街”です。HAMACHO HOTEL&APARTMENTSが位置する交差点も、そんな街づくりを少しずつ続けてきたスポットのひとつになります。この交差点に、街を象徴するようなビルを建てられないだろうか。そんな思いからスタートした本プロジェクト。結果的に、私たちの思い描いていた以上のビルが形になりました。

HAMACHO HOTEL&APARTMENTSの最大の特徴は、なんといってもバルコニーに植えられた5メートルの高木や季節によって表情を変える「緑」たちです。立体的に配置された緑は景観に潤いをもたらしてくれます。もうひとつのキーワードである「手しごと」を象徴するために、「杉板本実型枠」という伝統的な工法で仕上げた杉の木目のついたコンクリートの壁のほか、ひとつひとつ細部にまでこだわった部材を取り込んでいます。

他にふたつとないユニークな外観に仕上がったことで、街を行き交う人にとっても注目の建物となっている様子です。ホテルの前を通り過ぎる子どもたちが「こんなホテルに泊まってみたいね」と話しているのを耳にしたこともあります。そこにあるだけで、多くの人をワクワクさせ、街を活気づける。そんな付加価値のあるビルになったと感じています。

オープン後、この街を訪れる人が増えています。

HAMACHO HOTEL&APARTMENTSにはもうひとつの狙いがあります。それは街の賑わいの中心となることです。単なる賃貸住宅ではなくホテルを併設し、ブルーノート東京が経営するダイニングバーやビーントゥバーのチョコレート専門店、ほかにも国内外のデザイナーの作品を展示・使用できる客室を設けたのはそのためです。

オープンから8カ月が過ぎましたが、この街を訪れる人が増えている手応えがあります。ホテルもマンションも、稼働状況は予想以上に順調です。海外からのお客様も増えています。ホテルの1階にあるダイニング&バーは、店舗の入り口が交差点から目につきやすい設計なので、地元の方がふらりと立ち寄ってくれることも多いですね。定期的に行っている本格的なジャズライブでは、海外からのお客様も着物をまとった地元の方も一緒になって生演奏に耳を傾けています。これも伝統ある日本橋という土地ならではのユニークな光景です。そうかと思えば、その横のテーブルでは、ホテルの宿泊客が家族で食事を楽しんでいる。多種多様な人々で賑わう空間になっています。

今後は、入居しているテナントや地元の人を巻き込んだ交流型のイベントも企画していきたいですね。ジャズライブにしてもそうですが、ひとつのイベントを定期的に続けていくことで、街に文化が根付きます。文化こそ、街への愛着の源にほかなりません。訪れる人にも、暮らす人にも愛される。このビルを中心に、そんな街づくりを続けていきたいと思います。

松田平田設計と一緒だから、
デザイナーたちも挑戦できた。

the range design 株式会社
寶田 陵さん

高い技術力で、アイデアをかたちに

本プロジェクトにおける僕たちデザイナーの役割は「右脳」でした。ユニークなアイデアをぶつけて、チームをどんどん活性化していく。そのアイデアを論理的に整理し、実際に形にしてくれる「左脳」が松田平田設計さんです。

例えば植栽です。通常、建物に緑を取り入れるとしたら足元の外構まわりですが、それでは街のシンボルとしてインパクトが足りません。それならバルコニーに植栽を施したらどうか。それも地上から30〜40mのところに高さ5mを超える高木を植えてしまおう。そうすれば、室内から外を眺めたときにも、リゾートホテルにいるような気分を味わえるのではないか。打ち合わせでそんな話が出たときには、ファサードに屋上緑化を使った海外のホテルの事例などを、松田平田設計さんにどんどんお見せして、イメージを共有していきました。

そんな突拍子もないアイデアを実現できたのも、松田平田設計さんがいたからです。木がしっかりと根を張る特殊な土壌で高木を栽培するところから始めて、プランター代わりの蛇籠を二重にしてバルコニーにアンカーで固定するなど、さまざまな工夫によってイメージを形にしてくれました。オープン後には大型台風の直撃を受けましたが植栽の被害はゼロ。松田平田設計さんの高い技術力を見せつけられた瞬間です。

圧倒的な対応力で、常にベストを追求する。

株式会社乃村工藝社 A. N. D.の小坂竜さんがデザインした、ダイニング&バーの設計も印象的でした。一旦は設計まで終わり施工が始まっていましたが、小坂さんはそのタイミングで交差点に面したビルの角を斜めに切り取り、エントランスとすることを提案。確かにそうすれば、エントランスが交差点の3方から視認できるようになります。

この提案を受けた松田平田設計さんは施工中にも関わらず、すかさず設計を変更。この判断はなかなかできません。小坂さんの大胆なアイデアと、松田平田設計さんの柔軟な対応力。このふたつが噛み合って生まれたダイニング&バーのエントランスは、多くのお客様を迎え入れるのにふさわしい「ビルの顔」になったと思います。

美しい内装も優れた設計者がいてこそ。

内装も予想以上の仕上がりになりました。内装というものは、寸法が少し変わるだけでガラリと印象が変わってしまいます。そこを最終的にコントロールするのは、僕たちデザイナーではなく設計者です。松田平田設計さんは機能性や耐久性などの数字をきっちりと抑えた上で、高い美意識をもって担当してくれました。

例えば、僕がデザインを担当したホテルの客室では、伝統的な日本建築に見られる「小上がり」「床さがり」のような段差によって、空間を仕切ることを提案しました。松田平田設計さんはこの意図をしっかりと汲み取って、構造的にも無理なく仕上げてくれた。客室にいても緑と手仕事を感じながら、部屋全体に「日本のDNA」を感じさせるコンテンポラリーな設えで統一できたのはそのおかげです。

「右脳」と「左脳」のかけ算によってつくりあげたHAMACHO HOTEL&APARTMENTS。外国のお客様だけでなく地元の人からも、「またここに訪れたい」と思ってもらえる施設になれば嬉しいです。


各エリアがゆるやかにつながる
これまでにない複合施設を。

松田平田設計
設計チーム

人と人が自然に交わる空間を。

街のシンボルであり、リビングとなるような空間をつくりたい。安田不動産様からそんなご要望をいただいたことから始まったのが本プロジェクトです。さまざまな機能を併せ持つ複合施設にしようと決まった段階で、まず考えたのは建物の構成です。通常は階層ごとに機能を振り分けていきますが、それでは賑わいを生み出す施設にはなりにくい。そこで考えたのがホテルとマンションをフラットに配置する構成です。いびつな敷地をうまく利用して、シンボリックな外観のホテルを大通りに面した北西側に、日当たりの良い南東方向にマンションが張り出すように構成しました。

さらにホテルエントランスとマンションエントランスはセンターアレイと呼ばれる貫通廊下で結び、導線が交わるようにしました。マンションの居住者もホテルラウンジやダイニングバー、ショップなどを日常的に利用できるようにすることで賑わいをつくりだすことが狙いです。ホテルラウンジとダイニングバーの間は遮音性のある可動間仕切りで仕切れるようにしてありますが、通常は開放されておりとダイニングバーの音楽や談笑がホテルラウンジに漏れ伝わってくる。これも賑わいを生むための工夫のひとつです。1階全体をパブリックなスペースとすることで、ビル全体に活気が生まれました。

専門家の力を束ねあげることが、設計者の仕事です。

多くのデザイナーさんが参加されたことも、今回のプロジェクトの大きな特徴です。ホテルのデザインを手がけたのはthe range designの寶田さんとUDS株式会社さん。ダイニング&バーは株式会社乃村工藝社 A. N. D.の小坂竜さん。デザイナーの作品を展示・使用できる客室「TOKYO CRAFT ROOM」は、TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO の柳原照弘さんの担当です。それぞれの個性豊かなデザインを生かしながらも、建物全体としては統一感を生み出したい。異なるエリアをゆるやかにつなげるイメージを設計初期段階から共有していきました。

例えばホテルエントランスとダイニング&バーです。寶田さんと小坂さんから当初いただいたデザインはともに素晴らしかったものの、並べたときに連続した空間でありながらどこか別々の施設という印象がありました。どうすれば統一感が生まれるのか。何度も話し合いを重ねた結果たどりついたのが、それぞれのエリアの天井や床・壁の仕上を揃える案です。これによってそれぞれ異なるデザインながら、全体が統一され、連続したひとつの空間が生まれました。こうした調整ができるのも、私たちがプロジェクトの川上から川下までに、一気通貫で関わっているからです。

植栽にあたっても建物上に植栽を植える技術力に長けた「株式会社イケガミ」さんや、国内外の植栽を幅広く取り扱う「SOLSO Architectural Plant & Farm」さんの力をお借りしています。このようにあらゆる分野のプロフェッショナルの力をアッセンブルして、建物を完成へと導いていくことこそが私たちの仕事です。その集大成であるHAMACHO HOTEL&APARTMENTSが、街のシンボルとして、リビングとして、大勢の人に愛されてほしいと心から願っています。


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