埼玉工業大学
TECHNOLOGY |2018.10.24

大樹の元で生まれる
コミュニケーション。

大樹の森は人を誘う。その懐の深さに人が集い、対話が生まれます。木に寄り添えば親密な、
木を囲えば大勢の、コミュニケーションが生まれます。そのような場が、研究現場である「埼玉工業大学ものづくり研究センター」に誕生しました。
その大空間には、一般住宅サイズの木材でつくるというものづくりマインドが込められているのです。

ゲストを最初に案内する場所。

私の研究室は別棟にありますが、ここには2日に一度は来ます。主要実験設備があるからですが、実際のところ気分転換に来るのです。大樹の下のラウンジはやはり落ち着くしリラックスできます。

化学は時には3Kのイメージがあります。危険、汚い、暗い。化学物質を扱う宿命ですが、そのため安全を図って閉鎖的になります。しかしここは違う。明るくて、解放的。各研究室は全面ガラス張りでとてもオープン。中央にはその大樹のラウンジがあって室内とは思えない広がりです。オープンなラボならば、これまでにないことができるのではとワクワクしました。ここでの研究テーマは学長のビジョンもあって、太陽光エネルギーの蓄電池。それを国際的な共同開発で行います。実験設備はガラス張りのオープンな部屋に設置され、実験のプロセスが見える化できました。ここで何やってるのですか?と部外者からよく質問されます。そこからさまざまな人との交流が始まります。

ですから大学に訪れるゲストには、まずこの研究センターを案内します。みなさん大樹の柱を見上げて驚かれます。コミュニケーションはそこから始まるといった具合です。実験室がガラス張りなので、設備、机のレイアウトも配慮するようになりました。解放的であると同時に気持ちが引き締まる。それがまた使い勝手を良くしたり、安全性を高めたりする効果があることにも気づきました。

オープンな研究環境から、
さまざまな交流が生まれてくる。

生命環境化学科准教授
松浦宏昭さん
ショールームのような研究室

最先端の研究拠点が、
学生に人気の居場所になる。

埼玉工業大学学長
内山俊一さん

建築が研究の雰囲気を醸成する。

工業大学であればこそ、「ものづくり」を大学教育の核にしたいという想いがあります。その理念を実施するにはものづくりのための開発拠点が必要と考え、そのために建設したのがこのセンターです。そこで何を開発するのか?本学の代表的な研究テーマとして注目したのが「自然エネルギー」です。自然エネルギーの筆頭に上がる太陽光発電は、蓄電技術が最重要課題。そこでリチウム電池より安全性、耐久性が高い「レドックス・フロー電池」の研究開発を進めることにしました。この施設で国際共同研究を行っています。もうひとつの主要テーマは「電気自動車」。自動運転ではいち早く公道走行実験を果たしましたが、その壮行式を行ったのもここです。

大学の代表研究を行う開発拠点であれば、この施設はオープンな、コミュニケーションの場でなければなりません。ここで繰り広げられるのは研究者の個人研究ではなく、さまざまな人との交流をともなう国際的な共同研究です。各種研究会も積極的に誘致してゆきます。そのため、建屋自体に特徴を持たせてものづくりのシンボルにしたいと考えました。この構造は予想を超えたものです。大樹の架構は壮大で、暖かみがある。木は誰でも一度は工作したことのある親しみやすい素材。ものづくりの精神と重なって、先進的な研究を推進しようという学内の雰囲気を醸成しています。そのような開発拠点が、今では大食堂とならぶ、学生たちに人気の日常的な居場所となっていることもまた、大きな意味を持っています。

大空間を
一般住宅サイズの木材でつくる。

松田平田設計 設計チーム

研究を「見せる」透明性の高さ。

工業大学のものづくりにかかわる領域、機械系、化学系、システム系の研究室と共用のワークスペースがつくられました。ワークスペースは25m四方を、4本の樹木のような構造体で支えているユニークな大空間。構造体はすべて木造です。そこには大断面の集成材が使われているわけではなく、一般住宅サイズの製材と集成材で構成されているところに特徴があります。環境面、経済面から近年生産方法が見直されてますが、より汎用性の高い材料や技術だけをつかって大空間を生み出しました。

またこの建築では研究を「見せる」ことでコミュニケーションを図ろうとしています。そのため研究室は全面ガラス張りにする他、研究室外壁の耐震壁を板材ではなくラチス格子とすることで、建物の外と中の視線も通しました。

枝分かれのルールと枝の接合。
大樹は構造的な合理性も意図したものです。床から天井に行くほど枝分かれするカタチは、床を広く使いながら天井を多くの支点で支え、屋根構造を軽量縮小化できます。一見複雑に見える枝分かれですが、ひとつの枝分かれで1~2本、元の枝の面と同一平面上で接合するというシンプルなルールでつくられています。

木材が大樹に見えるのは、ほぞで接合部を組み金物を一切見せていないから。ものづくりの技術が集約されています。当初案は4本の大樹をそれぞれ対称形で枝分かれさせ、空間に均等配置していましたが、周囲のスペースが狭いため4本を中央に寄せました。結果1本1本は非対称形ですが、4本合わせた株立ちのような木として全体で対称形にまとめバランスをとりました。

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