松田平田設計は1931年(昭和6年)の創立以来90年の年輪を重ねて今日に至りました。設計事務所という職能の理解もままならない時代、大恐慌の影響による不景気の中の厳しい門出でしたが幸いにも多くのクライアントに恵まれ、アメリカ式パートナーシップの運営により我が国における組織設計事務所の草分けとなりました。創業者である松田軍平は当初から徒弟制度的な旧来の事務所を指向せず、幅広い分野から人材を登用してそれをうまく共働させることで所員の能力を最大限引き出すような体制をいち早く整え、組織による仕事の進め方を実践していました。アーキテクトもエンジニアも対等であるリベラルな社風は現在にも引き継がれ、変わることはありません。
社歴はほぼモダニズムの系譜に重なり、これまでに手がけたプロジェクトは延べ6,000件を超えています。残念ながら既に役割を終えて消失してしまった建物も少なくありません。弊社は「優良なる社会資産の創造」を社是としてきましたが建築はその社会、時代の反映でもあり「優良」の解釈は必ずしも一様ではありません。経済性を第一義に追いかけてきた私たちは今世紀に入ってにわかに、地球規模での環境保全への深刻な課題に直面し、また大規模な自然災害の到来も予測されています。これら喫緊のテーマに建築の分野で貢献できることは多々あるし、その解決は私たちに課せられた責務でもあります。
本ページは節目の年にあたり、これまでをふり返り、今を見つめ、未来に進むための手がかりにしたいとの思いでとりまとめました。掲載写真毎にその計画地やクライアントの顔、工事現場でのシーン、そして何よりも設計でこだわった点やうまくいった所、或いは失敗したことまでが記憶に蘇ってきます。投入したエネルギーの量に比例してその記憶は鮮明であるに違いありません。自分たちの仕事を改めて整理し反芻する中に、次世代へのキーワードが浮かんできます。時代は大きく変わりそのスピードも加速していますが私たちは初心を忘れることなく、事務所創立以来のDNAをしっかりと受け継ぎ、未来へのより良い環境創造に向けて挑戦、飛躍していきたいと思います。